2003年5月2日
フォーマットサイズによる被写界深度の変化
デジ(digi(kumahiro))
APSサイズのカメラと35ミリフルサイズのカメラを比較すると、同じレンズを装着した場合は画角が違うことは一目瞭然です。これはデジタルカメラと銀塩35ミリの場合が顕著ですが、例えばキヤノンEOS 10Dでは、銀塩35ミリに比べ、焦点距離が1.6倍相当のレンズの画角になります。
それでは被写界深度はどうなるでしょうか。もちろん、使用レンズも絞りも同じ、被写体までの距離その他の撮影条件が全て同じ場合の話です。
Aさん:レンズが同じなので、CMOSサイズが変わっても被写界深度は同じ。
Bさん:望遠レンズのようになるため、APSサイズの方が被写界深度は小さく(狭く)なる。
Aさんは風景写真歴○十年で、35ミリだけでなく、ブローニーフィルムを使う中版カメラも良く使います。フィルムは風景の発色にこだわるのでポジフィルム(リバーサル・スライド)です。中版カメラは6×4.5、6×6、6×7、6×9とサイズの違うフォーマットがいくつかありますが、レンズは(専用の場合もありますが)同じレンズを使う場合が多くなります。
そのためAさんは普段から同じレンズを違うフォーマットのカメラに付けて撮影することが多く、その経験から、画角は違っても被写界深度は同じであると断言します。
一方、Bさんは銀塩では35ミリとAPSサイズを使っていて、同じレンズで撮影した写真をL版や2L版にプリントして楽しんでいます。プリントするのでネガフィルムが主体です。Bさんも同じレンズで撮影していますが、Aさんと違うことを言います。APSサイズの方が望遠レンズのように被写界深度が狭くなる感じがする、少なくとも同じではないと言います。どちらが正しいのでしょうか。
実はAさん、Bさん、どちらも(それぞれの前提では)正しいのです。その理由はポジとネガの違いにあります。といってもフィルムの光学的性質ではありません。鑑賞方法の違いなのです。
Aさんのような中版のポジフィルムでは、スライドプロジェクターでの鑑賞は難しく、普通はライトボックスに乗せてフィルムの画像を直接(またはルーペで)見て鑑賞します。異なるフォーマットで写すとフィルム(1コマ)の大きさが異なります。異なるサイズのフィルムをライトボックスの上に並べて鑑賞することになります。つまり、鑑賞距離は同じで画面のサイズが違っているのです。(ここがポイント)
Aさんの鑑賞方法の場合、小さいフォーマットのフィルムは大きいフォーマットのフィルムの中央部をまさにトリミングしたものに他なりません。中央の共通画像は全く同じです。つまり被写界深度も全く同じになります。
ところが、Bさんの鑑賞方法は違います。プリントして鑑賞するということは、フルサイズでもAPSサイズでも、鑑賞サイズは一緒です。(L版ならL版同士、2Lなら2L同士で同じサイズ。)ということは、APSサイズの方がフィルムから、より大きく拡大することになります。(ここがポイント)
仮にBさんがAさんのようにネガフィルムをライトボックスに並べて鑑賞すれば、その画像はトリミングしただけで中央部は全く一緒です。つまり被写界深度も同じです。(ネガだから鑑賞するのは難しいですが)しかし、プリントしたものはAPSサイズの方がより大きく拡大したものになります。ということは、元画像は同じボケ具合でも、大きく拡大する方がより大きくボケることになります。つまり、APSサイズからのプリント方が、フルサイズからのプリントよりも、ボケて見えるのです。従って、被写界深度はAPSサイズの方が小さく(狭く)なるのです。
もう一度、なぜAさんもBさんも正しいと言えるのかというと、被写界深度というのは人間が鑑賞するときの便宜上の尺度だからです。つまり、鑑賞方法に依存する量なのです。
通常、特にことわりのない限り被写界深度は「キャビネサイズにプリントした写真を明視距離(25センチ)で普通の目の分解能(角度の1秒)を持った人が見る」ことを前提にしています。この鑑賞条件を決めることで、許容錯乱円(=焦点が合っていると感じるボケの範囲)のサイズが決まるのです。これは一般に0.03ミリとも0.033ミリとも言われていますが、キヤノンでは許容錯乱円の直径を0.035ミリとしてEFレンズを設計しているそうです。(EF LENS WORK V(3) p.200)
ただしこのサイズは銀塩35ミリからキャビネへの拡大率を基準にした数値なので、APSサイズから同じサイズにプリントする時は拡大率が1.6倍になることを考慮する必要があります。すなわち、これを1.6で割った0.019〜0.022ミリとなることに注意する必要があります。
ちなみにAさんの鑑賞方法では許容錯乱円のサイズはどのフォーマットも同じです。拡大率は1倍であるからです。だからAさんにとっては、どのフォーマットも被写界深度は同じになるわけです。
ところで、デジタルカメラの場合ですが、やはりプリントする、あるいはPCのモニターで全画面表示で見ることが多いと考えられます。ということは、同じサイズで鑑賞することになります。これはBさんの鑑賞方法と同じことになります。従って「同じ焦点距離のレンズを使用する場合、APSサイズの方がフルサイズよりも被写界深度は小さい(狭い)」ということになります。
ちなみに、ピクセル等倍での鑑賞は、画面サイズよりも画素数に大きく依存するため、ここでは考えないこととします。
次に、APSサイズの方がフルサイズよりも被写界深度が小さく(狭く)なるとして、それは画角が同じレンズ(1.6倍の焦点距離)の被写界深度と同じになるのでしょうか。実はそうではありません。
この話題は1〜2年前に、EOS digital BBS(http://www.eos-d-slr.net/)で議論になり、私も投稿しましたが、その際に私が導いた算式は以下の通りです。

例えばポートレートを想定して撮影距離1.5メートル、フルサイズの設定を、レンズの焦点距離を80ミリ、F値を2.8、δは0.035ミリとします。APSサイズでは画角を同じにするため、焦点距離50ミリのレンズを使用します。(δは0.022ミリ)。このとき、APSサイズでフルサイズと同じ被写界深度にするためには、絞りをF1.6まで開くことが必要です。つまり1.5段強、開く必要があります。逆にF2.8のままで同じ被写界深度を得るためには(50ミリではなく)65ミリのレンズをつける必要があります。(当然画角は変わってきます。)
このようにAPSサイズのデジタルカメラに同じ画角のレンズを付けても、同じF値では被写界深度が大きく(広く)なります。同じ画角で被写界深度も同じにするためには、絞りをさらに開ける必要があるわけです。この関係は上記算式の通り非常に複雑で簡単な法則を見出すには至っていません。しかしながらいろいろなケースを想定してやってみた結論は、下記の通りです。
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同じ画角で同じ被写界深度となるには、約1.5絞り余分に開く必要がある。 |
注1:教科書等に載っている算式は過焦点距離を用いるものが一般的ですが、撮影距離ではなく被写体距離を使っているため、実践向きではありません。被写体距離は仮想レンズ面と被写体との距離のため、カメラに装着するレンズによって異なるからです。
一方上記算式は、フィルム面からの距離である撮影距離を使用するため、ほぼ自分と被写体との距離と認識しやすく、今回のように使用レンズをいろいろ変えての実験には使いやすい長所があります。
注2:一般的な過焦点距離を使用した算式の場合、レンズの繰り出し量を無視した近似式と思われるので、マクロ撮影等には適合しないと考えられます。
一方、上記算式はマクロ撮影時にも成立します。(ただし、レンズの焦点調節が全体繰出方式の場合を前提としており、インナーフォーカスの場合は異なってきます。)
注3:銀塩とデジタルの解像度・レンズの相性その他の理由による被写界深度の相違があるかどうかは不明ですが、ここではそれは問題にしていません。あくまで、鑑賞方法と目の分解能だけで決まる許容錯乱円を前提とした議論です。
最後になりましたが、誤解や計算ミス等がありましたら、なにとぞご指摘いただければ幸いです。
http://digitalphoto.tripod.co.jp/
以 上